世界最大(人数?)のグラベルレース「バリールーベ 2022」 レースレポート 中村龍太郎

Barry Roubaix 2022 100mile “Psycho Killer”

半袖で過ごせる気温になったと思ったら雪が降り、桜が咲いたと思ったら冷雨で花びらが落ちる、そんな不安定な天候のケンタッキーの春が今年もやってきた。2022年シーズンの始まりである。3/26に開催されたBarry Roubaixに参加。レースの名前から察する人がいると思うが、丁度先週開催された「Paris-Roubaix」にちなんだ名前であり、Barryというのはミシガン州バリー郡を走ることから来ている。Barry Roubaixは2009年が初開催で今回は13回目の開催、World’s Premiere Gravel GrinderのUNBOUND Gravelの方が2006年初開催と歴史が少し長いものの、Barry RoubaixはWorld’s Largest Gravel Road Raceと謳われている通り、今年は2300人もの選手が参加した一大イベントなのである。COVIDの影響で2020年大会は中止され、2021年は10月に開催されたので二年ぶりに春開催となった。

UNBOUNDの200mileを走るなら最長距離でしょ!と100mile別名「Psycho Killer」にエントリー。後で気づいたことだが、この100mileはこの大会の所謂「花形」ではなく、Psychoの名が示すとおりに頭のおかしい奴ら扱いの2018年から新設されたクラスであり、UNBOUNDで言うXL(300mile)の位置づけ。有力Gravel riderは62mileにエントリーしており、ある意味ペースが速くなくて命拾いした。今回の目標は限定マグカップがもらえる条件である6時間半を切ること。2021年秋の結果を見ると100人近くの選手が6時間半を切っており、ヨユーだと高を括っていたら、蓋を開けてみると完全にドライの暖かい日だったようで、参考にならない。

天気予報と毎日にらめっこしても氷点下前後+雪予報から変わらない今回のコンディションではかなり厳しいレースになりそうと、レースの日が近づくにつれて沈むやる気…。そんな気分を払しょくするために、レキシントンからレース会場までの道中でFort Wayneの美味しいHotdogの老舗Coney Islandに寄る。 1914年からやっているそうで、アメリカの100年以上の歴史は割と珍しい。HotdogはどこまでいってもHotdogだというコメントは受け付けないし、実際Chili Soupと一緒に食べるのは絶品だった。

レキシントンから土曜のレースの為に金曜に出発したのはレキシントン在住の日本人トリオで、6時間の道のりは運転手が三人もいればあっという間だった。ホームセンター地下の受付で参加賞を受け取り、柄が可愛かったのでTシャツを購入。 売り子のお姉さんにマグカップが目標だと伝えると「You can do it!」と応援され俄然やる気でる。

夜はめちゃくちゃ雰囲気のいいDenny’sで夕飯を食って、年功序列で自分が床で就寝。

100mileのみ朝7時にスタートのため日が昇らないうちに会場入り。サマータイムが始まったせいで日の出の時間が遅く、当日の日の出予想は7時半。ライトをつけろと書いてあったのを見落としていたので暗い中スタート地点へ移動する。

今回の機材のUNBOUNDからの変更点は、100mile = 160kmなら上半身は耐えられるだろうとRED SHIFTの衝撃吸収ステムから通常に戻したこと、ホイールが650から700(ALEXRIMS RXD2)に換装したことの二つ。700の影響でタイヤ幅が47mmから38mmと狭くなったため、空気圧を1.6barに落とした。背負うCamelbak ROGUEには1Lの水を入れ、キャップ付きのCamelbak Podium Dirtを二本刺し、Cycle designのトップチューブバックにはおにぎりを三つ入れる。途中でエイドステーションが三か所あるが、寄らなくてもいいようにおにぎりの追加三つとその他補給食をバックに入れる。と書いてはいるが、氷点下に近い気温で背中のハイドレーションの水は凍り、チビチビとしか飲めず、ボトルも一本も飲み切らないほど寒いという結果に。おにぎりは無理やり食べきったが、巻き上げる泥が付着してジャリジャリと不快な感を味わうことになった。

 

暗い中7時に205名の選手がスタート。

開始5分で未舗装路に突入。突入と共に前走者に隠れていた穴ぼこを見落とし自転車を跳ねさせ前に積んでいたボトルがどっか飛んで行った。暗い+集団ですぐに回収することはできず(レース終了後に車で取りに行って無事回収済み)。早速飲み水を無くしたが、寒すぎてそこまで必要としなかったのが幸いだった。先頭でスタートしたわけではないが、舗装路と徐々に明るくなってきたので先頭グループに何とかJoin。100mileを共に走る序盤なのでアタックは無く、サイクリングモード。今回は手袋を指出しCastelli ARENBERG GEL 2の上にDefeetの軍手袋をつけていたが、他の選手はスキーグローブのようなものをつけている中で明らかに浮いているようで、参加者の一人から「Stupid!(バカじゃん!)」とイジられる。 未舗装路とはいえ轍しか走れないほど酷い道ではなく、比較的快適なペース。しかし途中から0℃前後の気温、雪、水溜まりから跳ねる泥水を自転車が浴びて、ディレイラーのアーム隙間に泥が付着し凍り、トップ二枚に入らなくなった。登りは問題ないが平坦下りは足が回り切ってしまい、集団についていくのがきつくなってくる。47km地点のちょっとした登り返しで集団が割れ、自分は後方に取り残される。何とか追いつこうと一人ブリッジしようとするも、タイミング悪くチェーン落ち。スタビライザーがONになっていたのに外れるのは不思議だったが、フロントのチェーンリングにも泥が付着しており、これが原因かな?いまだにわからない。チェーンを直し、後ろの集団を待つが、一度気持ちが切れると平坦で回りきる足が辛く、集団からも遅れる。ドラムと恐竜の謎のコラボに応援されて和んだ後、この後トップ二枚を使えないまま100km以上走るか、止まって直すか悩んで、止まって直すことに。 ディレイラーのアーム隙間の泥氷を携帯工具で叩き割り、手でディレイラーを動かして可動域を広げる。

再び走り出した時には自転車がめちゃくちゃ進むので、興奮のガッツポーズ。そこからは息を吹き返し、ちぎれてきた選手たちをバンバン抜いていく。

森の中の区間に入り、砂浜のような深い砂に手を焼く。CXで鍛えたバイクコントロール術で、クリア!とはいかず、登りで何回か下車。この砂はやや水分を含んでおり、フォークと前輪の隙間に砂氷のようなものが時間が経つにつれて増殖していく。ホイールが回転しなくなるということはなかったが、エアロな泥除けになったとポジティブに考えることもできない。砂地を歩くたびにシューズカバーはボロボロのドロドロになり、ゴールするころには無残な姿に。

95km地点で62mileの選手たちと一度コースが合流するのだが、ちょうど自分の時に62mileの先頭と鉢合わせ。1秒も後ろにつけることなくすぐに見送ったが、先頭のペースは異常に速く、ロードレース張りのアタックと追走をかましていた。そこに至るまで走った距離が違うだろうけど、同じカテゴリーでもついていける気はしない。100km地点からゴールまでは62mileとまったく同じコースになり、62mileのちょうどいいペースの集団が来てほしかったが、疲労度が違うので、少し一緒に走っては登りでちぎれて後ろの集団に回収される、の繰り返し。62mileの選手に「君が100mileの選手ってすぐ分かるよ!」と言われ、でしょうね、と思う。62mileと100mileはプレートの色が違うが、自転車についた泥の量で一目瞭然。面構えも疲れ切っているので全く違うのである。目標とする6時間半切りは残り距離から考えるとギリギリ。ペースも上げられそうになく、DHを持ったまま淡々と走る。

最後の未舗装路を終えてゴールまで残り4kmほどの舗装路。この時点で6時半まで残り10分。藻掻くか迷うが足がない。目の前でマグカップを取りこぼすのか…と思っていたら、ゴールまで残り1mileの看板が!何かの間違いだ!と思ったら、HPでダウンロードしたマップデータよりも3kmも手前にゴールラインが置かれてた。嬉しい誤算。

 

最後の坂で藻掻いて6時間24分34秒で16位でゴール。

優勝者は5時間40分11秒と自分よりも45分も速いが、表彰で登壇できる10位までは11分差と意外と手が届きそう。ディレーラーのアクシデントさえなければ…と思ったりもするが、来年への目標ができたということでヨシとしよう。ゴールした後、マグカップ受け取り所で売り子のお姉さんと再会しマグカップをギリギリ手に入れたと言ったら「I told you!」と覚えててくれてテンションMaxで喜んでくれる。表彰会場ではビールを片手に火を囲み、日本人三人衆も無事に完走をお祝い。

気温は低くて辛かったが、砂以外は路面は易しく、雪の中を走るというまた違った景色を見れたので楽しかった。UNBOUNDでは暑さと距離の戦いにもなるが、何とか日の入り前にゴールして“Race the Sun” Clubに入りたい!

 

中村 龍太郎(なかむら りゅうたろう)

チーム:イナーメ信濃山形(日本)、859cycling(アメリカ)

2015年全日本選手権個人タイムトライアルチャンピオン。一般企業に勤めるフルタイムワーカーでありながら、Jプロツアーを走り1桁台の順位を量産。トラックレースにも参戦し、全日本オムニアムでは3位。2019年から仕事の関係でアメリカ・ケンタッキー州在住。

主な成績

・2015年 全日本選手権 男子個人タイムトライアル優勝
・2015年 Mt.富士ヒルクライム優勝
・2016年 全日本選手権オムニアム3位
・2017年 JBCF Jプロツアー 前橋クリテリウム2位

使用機材

ロードバイク:Felt FR FRD

TTバイク:Felt DA1

トラックバイク:Felt Tk FRD

グラベルバイク:Felt Breed 30

ヘルメット:BBB マエストロ

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