クイーンKハイウェイのバイクコースを数マイル走ったところまでは、すべてがコナ4連覇のワールドチャンピオン、ダニエラ・リフの計画通りに見えました。彼女の最大のライバルであるルーシー・チャールズ・バークレーは、シーンで最高のスイマーであり、過去2年間、リフに次ぐ2位でフィニッシュした女性です。予想通りスイムパートを終え、最初に姿を現したのは彼女でした。カイルア湾でのスタート前にクラゲに刺されてチャールズより10分遅れてスイムを終えた前年とは異なり、今年のスイスのスーパースターは5分のビハインドでした。観衆は皆、リフが過去5シーズンのほぼすべてのレースと同じように再びバイクでチャールズを巻き上げ、特徴的な力強いランで、5年連続のコナタイトルを獲得することを予想していました。
しかし、マイルが刻々と過ぎていくにつれて、チャールズや他のライバルとリフのタイムギャップは縮小せず、拡大し始めました。バイクパート終了時、リフはチャールズに対して約13分遅れ。確かに、多くの人が予想したように、リフはランで差を縮めていきます。しかし、徐々にリフの不調が明らかになってきました。コナのみならず世界中の数え切れないほどのトライアスロンで圧倒的な力を見せてきたエンデュランスマシーンのリフはそこにいません。最終的にチャールズは再び2位でゴールし、ドイツのアン・ハウグが初のコナタイトルを掴みました。そしてリフは3:20:36というタイムでランを走り、全体で13位になりました。リフが持つコースレコード8:26:18に対して、今回のタイムは9:14:26でした。
人生の多くのことと同様に、トライアスロンの結果は常に数字だけで分析できるわけではなく、競技の結果のみで価値を決めることもできません。スポーツの美しさは、他者と戦うことではなく、共有された経験で私たちを結び付けることにあります。トライアスロンの聖地へ巡礼する約2,500の人々のうち、プロやエイジで表彰台を目指すのはほんの一握りです。世界中から太平洋の真ん中の小さな火山岩に集まるさまざまな年齢や背景の何千人もの男性と女性は、逆境に自らを置き、自分自身に挑戦します。
これが、コナのフィニッシュラインがここまで人を引きつける理由です。地球上で最も健康なアスリートが、私たちが考えられる限界を超えて体をプッシュし、それぞれの頭上にフィニッシュラインバナーを掲げ感動の声を上げます。それは私たちに勇気と夢を与えます。そのため、楽園での過酷な長い一日から光が薄れていくにつれて、健康、誇り、達成に向けて個々の旅を終えようとしているエイジグループを応援します。そして真夜中が近づき、星が暗闇の中で希望の光のようにきらめくと、多くのアスリートが制限時間にそのフィニッシュラインを横切るよう、私たちは声を枯らして叫びます。なぜって?トライアスロンを経験したことがない人でさえ、その旅がどれほど難しいかを知っているからです。スタートラインにつま先を向けるのにどれだけの決意が必要か、そしてフィニッシュラインに身体を運ぶのにどれだけのグリットと決意が必要か。8時間で終わるか17時間で終わるかにかかわらず、距離は同じです。
ハワイのコナは特別な場所で、その歴史あるトライアスロンイベントは他で経験できるものとは異なります。威信、地形、暑さ、湿度が組み合わさって、最も困難な環境を作り出し、人間の能力を最大限に引き出します。これが、ミリンダ “Rinny” カーフレーやダニエラ・リフなど過去のチャンピオンと、新しいチャンピオンAnne Haugのパフォーマンスが驚くべきものと言える理由です。しかし、それはまた、最も経験豊富なアスリートの身体にとっても厳しいものです。今年、カーフレーは腕を骨折してわずか数週間でしたが、勝負をするつもりでコナに到着しました。スイムで良いパフォーマンスを見せバイクスプリットをスタートしましたが、今までない故障を経験しました。骨盤の仙骨と腸骨をつなぐ仙腸関節の問題で左脚が動かなくなってしまい、すぐにレースを降りなければなりませんでした。しかし、良いこともありました。もちろん彼女は表彰台を争う戦いに参加したかったのですが(3回優勝したチャンピオンの粘り強い精神を持って)、小さな娘と一緒に夫のフィニッシュラインに立ち会うことができました。プロ男子部門でキャリア最高の2位を獲得したティム・オドネル。カーフレーはティムに言いました。「あなたは心を開いて走った。私達の誇りよ。」彼女のパフォーマンスは望んでいたものではありませんでしたが、カーフレーとその家族は、コナの意味を私たちに教えてくれました。
オーストラリアのジョシュ・アンバージャーは、3年連続でプロの男子部門のバイクトランジションに最初に到着したアスリートとなりました。カイルア湾から現れる最速の男たちから追いかけられる立場でしたが、口ひげを生やした今年のジョシュは自信がありました。IA Discにまたがり、ジョシュはトップグループでクリーンな走りを見せました。しかし、日が経つにつれて、コナの暑さと湿度が牙を剥きます。ジョシュは、2:50のマラソンペースで強力なランスプリットを開始した後、エネルギーが低下するのを感じました。しかし、ジョシュは他の何百人ものコナ参加者と同じようにコースを最後までやり遂げようと決心し、フィニッシュラインを越えました。ジョシュの才能は驚異的であり、スイムの圧倒的な支配力がクイーンKハイウェイとアリイドライブに及ぶのは時間の問題です。
コナでの成功は一筋縄ではありませんが、コンスタントに結果を残しているアスリートも居ます。カイサ・サリは数年前にトライアスロンのシーンに出現し、ここ数年のコナで成績を残し続けています。今年、フィンランドのスターは8:55:33のタイムを記録し、6位になりました。彼女はまた、プロ女子部門で2番目に速いランを記録しました。一番は誰だったか?勝者、アン・ハウグです。今後のサリの活躍に注目です。
最後に、4度のチャンピオンであり、コースレコードホルダーであるダニエラ・リフを襲ったトラブルはなんだったのでしょうか?リフはレース前週とレース中も胃の不調に悩まされていました。アスリートなら誰でも知っているように、胃に関係する問題がある場合、普通はレースを走りません。だから、世界が注目する中、リフが苦痛を押しのけ、ワールドクラスのバイクとランを披露したという事実は本当に驚くべきことです。これは身体を追い込み、スピード、コントロール、そして達成感がもたらす非常にユニークな感覚を追求するアスリートの刺激になります。それが私たちがレースを目指す理由、コナが特別な理由です。
ダニエラ・リフは、トライアスロンのすべてを獲得した輝かしいキャリアで、パンテオンに名前をすでに刻み込んでいます。しかし今、彼女は今までに無い何か、まだ完成させていないやるべき仕事の感覚を経験しているのではないかと想像します。来年のコナは面白くなるでしょう。彼女は必ず戻ってきます。