世界最大のグラベルレース「アンバウンドグラベル」 2023 準備編 中村龍太郎

日の入り前ゴールで“Race the Sun” Clubのワッペンをもらいたい

スコールが激しく、停電が何度も起きるレキシントンからこんにちは。今年は停電が多い。あちこちで木が倒れて電線を切っているようです。さて、6月初めに参加したUNBOUND GRAVELの準備編でございます。遅い。

2022年のUNBOUNDは家庭の事情により参加できなかったが、キャンセル料が返ってこない代わりに2023年の優先エントリー権が手に入るシステムにより、2023年のUNBOUNDは22年の11月にはエントリーが完了。エントリー費は前回からほとんど変わらず$313。日本円に直すと…あぁ…やめてくれ頭が痛い…ここ最近円安が復活してしまったことを忘れていた…。家族よすまない、父は行く。

通常エントリーは実は抽選なのだが、自分の周りの日本人のエントリーの方で抽選に落ちたという人は聞かないので、海外から来る選手は優先しているのでしょう。グローバルグローバル。

昨年見つけていたスタートから30秒場所にあるAirBNBも6か月前に予約解禁になるタイミングでPCに張り付いて無事に確保。2021年に参加した時にはホテル関係は完全に舐めきっていてEmporiaに宿が取れず、ギリギリになって取れたレース前日の宿もスタートまで15分自転車で走らないといけないし、普通のホテルで一泊$200するという足元を穴が開くまで見られるという悔しい思いをしたので、リベンジをしたかったのです。そもそも330kmも走った後、一時間かけてホテルまで車で移動しなければならなかったのが本当に辛かった。よってレースのある土曜を挟む二泊はEmporiaでホテルを取るべき。そして今回のAirBNBがなんと2ベッドルームで一泊$120なのである!「レースは宿をとるところから始まっている」というのは昔の偉い人が言ったとか言わなかったとか…もう優勝だな!!

(宿の道向かいのSign)

と、まぁテンションが上がったところで、エントリーと宿が完了したらあとは自分の体と機材の準備。ビザ期限の関係で今年で本帰国になり得る中村家。つまりUNBOUNDのチャンスも今年で最後。2021年に三度のパンクを喫し、Midnight clubで完走した私には日の入り前ゴールで“Race the Sun” Clubのワッペンを貰うという目標があり、それには週末のトレーニングだけではダメだろうと漠然と考えていました。妻の前で土の下に座るいつものポーズをとろうと片膝をついたところ、肩に手を置かれ「汝、走りたくば朝早く起きて赤子に飯を食わせぃ」と寛大な配慮を賜り、毎週水曜日の仕事終わりに走る許可を得ることができた。

直訳すると「水曜放課後は毎週1stのお友達と遊ぶ予定もあるし、3rdの離乳食を朝イチであげてくれれば走ってもいいよ」ということなのである。そんなこんなで、週末のレースの予定に加えて水曜練が始まり、そのおかげで4月は500km、5月は860kmも練習ができたのである。少ないなんて言わせないぞ!

レースの方は4月中に自転車の苦しみを体に思い出させるために、クリテ3戦に参加。着順に絡むことはなかったが、集団走行とレース強度を思い出す。

 

前哨戦のKarst Crusher、表彰台が見えた…が…

そんな中でUNBOUNDの前哨戦として出たのがKarst Crusher。61mile=97.6kmのレースは未舗装路50%ではあるけど林間セクションなども含まれていて、最大勾配14.6%の未舗装路激坂もある難コース。Lexingtonの自転車仲間である鈴木さんが釣れなかったので一人で片道2h30min遠征。UNBOUNDと違い短距離なのでDHバーやショックストップステムなどはつけず、サドルバックだけつけて、バックを背負って出走。

強豪チームであるFirst Internet Bank Cycling Team(FIB)のジャージを見つけて絶望する。スタートから15km地点まで舗装路が続き、先導車が離脱した後、未舗装路に入った瞬間にFIBが先頭を固めてペースアップ。

なんとなく前の方にいた方が良いと思っていたのですぐ後ろについたが、すぐに林間区間に入り、これのためのペースアップだったんだと悟る。幸いにも5番手で突入。FIB×3(Gravel-Gravel-MTB) →Pinkジャージの若い子 →自分のライン。

三番手のMTBが意外にも林間区間遅くて、前二人が離れてしまったので、半ば強引に追い抜く。その際に棘に刺さって痛い思いをしたが、なんとか前二人に追いついた。が、林間区間はすぐに終わってペースダウン。傷ついた意味なし。その後の未舗装路区間のアップダウンで登り返しを利用してアタック。次の舗装路まで逃げたが、思った以上に離すことができず、戻る。その後、砂利の深いグラベル区間で、サイドの草むらを使って再度アタックするも、これも不発。

そのツケはちゃんと響いて、その後の14.6%の未舗装路激坂区間で千切れる。先頭はFIBのGravelの二人。その後Pinkジャージが続き、MTBは自分より後ろで自転車を押している。何とか乗車で登りをクリアし、前を追う。復路の林間区間に入り、Pinkジャージを捕捉。彼がコーナーでミスをしたところで自分が追い抜く。自身初のGravel Raceでの表彰台が見えてきて、嬉しくて奇声を発したところで前輪スリップ。前輪が木に激突し、爆発音。パンクだ直さなきゃ!とホイールを見るとポッキリ折れてる。

それを見て完全に動きが止まって10秒ほど呆然とする。そうこうしているとPinkジャージが「Are you OK?」と聞いてきて、正直何もOKじゃないけど「OKOK」と答える。ホイールを見ると折れてはいるが、リムが完全に分離しておらず、つながっている状態。これなら逆に曲げれば走れるのでは?と逆側におりゃ!と曲げてみる。何とかフォークに擦らずにホイールが回るようになった。確実にチューブレスとしては使用できないので、中にチューブを入れて空気を入れ、クリンチャー化。チューブを入れたのでより安定した、と信じたい。そのまま低速で林間区間を走るも、パンクしてしまったので、またチューブを変えて林間区間が終わるまで担ぎで走破。残り距離は25kmほどあるが、ゴールしなければ、車に帰れないし、単独遠征なので助けも来ない。家にいる妻を2h30minかけて呼ぶなら胸で十字を切って慎重に進む方が速い、と判断し走行中に空中分解するのではないかという恐怖を感じながらゆっくり走る。

何とかゴールし、なんとなく主張したかったので、その場でホイールを折って「これで走ったんだぜ!」と主張。

案の定謎の盛り上がりを見せるアメリカンな人々。そういうところ大好きです。

 

アンバウンドに向けてサスペンションポスト導入

家に帰ってきて冷静になると、残り二週間で前輪用意できるのか焦りだす。

掘り出し物があるかもしれないとショップを尋ねて、「そんなに高くなくていいからすぐに手に入る物を」と聞いてみると、「来週届くと思うよ」というとても不安になる台詞と共にホイールをネット注文してもらった。その後時間が経てど連絡はなく、いよいよ出発の週になり、我慢の限界が来てショップに直接乗り込むと、「あぁ、来てるよ!」と。安堵で崩れ落ちそうになるのをこらえて、「明後日出発なんだけど…」と言うと、「そうなの!?ならすぐやるわ」とそこからは怒涛の追い上げ。出発の二日前に無事に機材が揃い、一安心。

2021年の機材からの変更はサスペンションシートポストBBB ACTION POST BSP-42に変更したこと。2021年はお尻が痛くなりすぎて、最後の方はダンシングしている方が楽なほどだったが、これで解消するハズ。付属されているエラストマー(合成ゴム)は、~65kg用の 5番、65~85kg用の7番、85~120kg用の9番の三種類。自分の体重だとギリギリ65~85kgなので 7番エラストマーを入れた。ギリギリ5番にならないあたり、心にグサッと刺さるものがある。下側のピンを抜いて固定部を数珠つなぎの状態にし、エラストマーを交換できる。シッティングで踏んだ時にお尻がバウンドするのは避けたかったのだが、結果的に7番で十分な硬さだった。9番でも試してみたかった気持ちはあるが、やむを得ない。

一度レース機材でレースと同じ距離を走りたかったが断念。ぶっつけ本番で330kmに挑むことに。はたして!

レース編に続く。

 

中村 龍太郎(なかむら りゅうたろう)

チーム:イナーメ信濃山形(日本)、859cycling(アメリカ)

2015年全日本選手権個人タイムトライアルチャンピオン。一般企業に勤めるフルタイムワーカーでありながら、Jプロツアーを走り1桁台の順位を量産。トラックレースにも参戦し、全日本オムニアムでは3位。2019年から仕事の関係でアメリカ・ケンタッキー州在住。

主な成績

・2015年 全日本選手権 男子個人タイムトライアル優勝
・2015年 Mt.富士ヒルクライム優勝
・2016年 全日本選手権オムニアム3位
・2017年 JBCF Jプロツアー 前橋クリテリウム2位

使用機材

ロードバイク:Felt FR FRD

TTバイク:Felt DA1

トラックバイク:Felt Tk FRD

グラベルバイク:Felt Breed 30

ヘルメット:BBB マエストロ

サングラス:BBB フルビューHC

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