夢みたことより、もっとすごいライドを。 ~マレックへのインタビュー~

これはクランクブラザーズに届いた1通のメールから始まった、驚くべきストーリー。

2022年の初めに、私たちクランクブラザーズの元にマレックと名乗る人から、片側だけのシューズとペダルについての問い合わせメールが届きました。
当然のことながら、このような依頼はあまりありません。私たちは興味をそそられました。
それは、信じられないような逆境にあっても、決して「あきらめる」という言葉を口にしない、驚くべき人物のストーリーだったのです。メールの差出人であるマレックの辞書には、そんな言葉は無いに違いません。

2013年にバイクで事故に遭い、2週間後に目覚めたとき、マレックの片足は切断され、背骨を骨折しており、腕は麻痺していました。

クランクブラザーズ(以下CB):まずは自己紹介から始めましょうか。出身地はどこですか?どんな仕事をしていますか?

マレック(以下MT):こんにちは、皆さん! お会いできてうれしいです! 私の名前はマレック・トルキエヴィッチ。ポーランド出身の34歳の放射線科医です。がん専門病院でCTやMRIの画像解析をしています。自転車に乗るのは大好きです!
私は腕に麻痺があり、下肢切断者です。

CB:自転車への情熱はどのようにして始まったのですか?

MT:20年前、マレクという親友と一緒にMTBに乗り始めました。10代のころ、一緒にジャンプ台を作って跳んだり、マレクの地下室でよく自転車を修理したり、「New World Disorder」や「Kranked」といったMTBの映画を見たりしました。
長年にわたり、私はMTBコミュニティで多くの素晴らしい人々に出会い、そのうち親しい友人関係になった人も居ました。正直なところ、このスポーツで一番好きなのは人です。

CB: レースや競技をしたことはありますか?それともいつもファンライドだけ?

MT:いいえ、レース経験はなかったです。いつもファンライドだけでした。

CB: さて、2013年にあなたはモーターバイクでひどい事故に遭いましたね。何が起こったのか、少し教えてください。

MT: 大学時代、私は新しいスポーツ、エンデューロバイクに乗ることにしました。エンデューロバイクは素晴らしい経験で、とても楽しかったです。数年間、兄や従兄弟、その他の友人と一緒によく走っていましたが、残念ながら、2013年9月に、私の人生をどん底に突き落とす程の事故に遭いました。高速で木に衝突し、片足の切断、背骨の粉砕、左腕の完全麻痺、顔の骨の複数骨折、その他さまざまな怪我を負いました。医学部の最終学年を終えるどころか、集中治療室(ICU)で目覚めることになったのです。

CB: 目を覚ましたとき、どんなことを考えていましたか?

MT:2週間の昏睡状態から目覚めたとき、切断された足と麻痺した腕の姿に圧倒され、自分の将来がどうなるのか想像もつきませんでした。私は恐怖を感じ、深く落ち込みました。しかし、数週間後、私は希望の光を見いだし、新しい環境に適応する可能性を考え始めたのです。ICUにいるとき、最初にネットで検索したのが “自転車用義足 “だったのを覚えています。兄は「考え方は変わらないし、やり方が違うだけで好きなことはできるはずだ」と言ってくれました。

入院当初は喉頭神経損傷で声が出ませんでしたが、小声で話すことはできました。親友に泣きながら電話し、「もう自転車に乗れないのか」と尋ねると、「乗れるよ!」と。
でも、その時はまだ、それがどんなに大変なことかはわかっていませんでした。

リハビリの途中、ルディメンタルが歌う「Waiting All Night」のミュージックビデオに出会いました。脚を失ったBMXライダーが、義足で大好きなスポーツに復帰しようとする姿を描いています。まだICUにいた私は、そのビデオを見て、強い感動を覚えました。

事故から1年後、ドイツにある下肢切断者のための歩行学校を訪れ、初めて義足を受け取りましたが、残念ながら使い心地は非常に悪く、痛みを伴うものでした。それでも自立したいという思いが強かったので、痛みや違和感を押し殺し、やがて体も慣れてきました。
1年後、私はアメリカの義肢クリニックに行くことを決め、そこでオーナーのジョン・ハッティングが、痛みなく歩ける義足をつくってくれました。

CB:では、日常生活で使う義足は1本だけですか?

MT:高度な義足を2つ持っていますが、日常生活では主に新しい方の義足を使っています。どちらも膝にマイクロプロセッサーを搭載しており、歩行周期や地面の角度など、さまざまな要素を分析することができます。本当に素晴らしい技術製品です。
しかし、ビデオにあるように、私は義足なしで自転車に乗ります。なぜなら、義足は何のメリットもなく、むしろ邪魔になるからです。

CB: 事故から自転車に乗るまで、時系列で説明してもらえますか?

MT:事故後の最初の1年間は、信じられないほど困難な時期でした。新しい身体の制限を受け入れ、以前とは違う身体で生活することに適応しなければならなかったのです。義足がないため、大切な人の助けを借りなければならず、それを受け入れるのは難しく、罪悪感もありました。そんな中でも、私は勉強をやり遂げようと決意し、親しい友人には毎日車いすを押してもらい、助けてもらいました。また、フランスで腕神経叢の手術を2回受け、かなりの時間をリハビリに費やしました。愛用していた自転車も、もう乗れないと思い、友人に売ってしまいました。しかし、アクティブでありたいと思い、ローイングマシンを使ったり、片足と片腕だけで泳げるようになったりと、別の方法を模索しました。

そして1年後、私は医学部を卒業し、ついに義足を手に入れました。再び歩けるようになるまでの過程は予想以上に大変でしたが、最終的には前進することができました。放射線科の研修医になり、徐々に自立できるようになりました。自分の人生を取り戻したような気がしましたが、自転車はまだできないことでした。

再び自転車に乗れるようになるまでには、5年以上かかりました。その間、精神的、肉体的な準備をすることに力を注ぎました。ローイングマシーンを漕いだり、固定式ローラーの自転車を漕いだり、ルディメンタルのミュージックビデオを見ながら、また自転車に乗れる自分を想像して涙することもしばしばでした。

ある日、友人のマレクから連絡があり「e-bikeを購入したので、少し改造すれば乗れるようになると思う」と自信満々に言われました。早速、「本当に?」と聞いて、自転車屋さんに行き、初めて電動アシスト自転車を買いました。
改造のアイデアはあったものの、課題は同じような障がいを持つ人のMTBに関する情報がネット上で見つからなかったことです。つまり、誰も参考にする人がいなかったのです。

私は、股関節脱臼という手術で脚全体を切断しました。そのため、片側の太ももがなく、脚でシートを支えることが困難なのです。さらに、左腕も完全に麻痺しているので、さらに困難極まりました。そのため、オーダーメイドのシートが必要不可欠なのですが、どうすればいいのかわからず困っていました。

そんなある日、Instagramでダグ・ヘンリーに出会いました。ダグは、脊髄を損傷したAMAモトクロスのチャンピオンで、3度優勝しています。麻痺があるにもかかわらず、モトクロスやダウンヒルを、バイクから落ちないように特殊なバケットスタイルのシートで走ることができるのです。そこでダグに相談したところ、シートデザインについていろいろと教えてくれました。そこで、ゴーカートのシートを使ってみてはどうかと提案され、ネットで数種類を注文しました。最終的に最適なものを選び、私のニーズに合わせて改良を加えました。

再び乗れるようになるまでの過程は大変でした。最初の1年間は、ペダルを漕ぎ出すのに十分なバランスが取れず、MTBの友人たちがたくさん助けてくれました。しかし、乗るたびに上達し、次のシーズンには森で立ち往生する心配もなく、一人で乗れるようになりました。

CB:バイクの製作は一筋縄ではいかなかったと想像します。他にバイクで克服しなければならないことはありますか?

MT:私のバイクにはいくつか改良が加えられています。そのひとつがステアリングダンパーの追加です。この装置は、悪路でハンドルを安定させるために、片手で乗るときに特に有効です。同じような経験をした多くのライダーが、「ゲームチェンジャー」と呼んでいます。私自身、その効果を実証しています。装着した初日、その効果を信じられず、試しにトレイルの荒れた部分にわざと乗り込んでみたこともあります。

もうひとつの改良点は、ホープ製のデュアルレバーブレーキを取り付けたことです。以前はシマノの標準的なブレーキを使っていましたが、片側だけでは難しく、結果的にリアブレーキだけに頼らざるを得なかったのです。25kgのE-BIKEをリアブレーキだけで止めるのはかなり難しく、スムーズな走行ができないことが多いのです。しかし、ホープのデュアルレバーブレーキを装着することで、安全性とスムーズな走行を大幅に改善することができました。

また、このバイクにはMirandaの130mmショートクランクを選択しました。片足立ちのマウンテンバイカーである私が直面する問題のひとつは、スタンディングポジションで走るときにペダルが岩や根っこに当たってしまうことです。これは、私が立っているペダルが常にボトムポジションにあるためで、かなり危険な状態です。これを軽減するために、短いクランクを試すことにしたのですが、これが効果的な解決策となりました。

最後に、私が使っているペダルについてもご説明します。これが無ければ、効果的にペダルを漕ぐことができないからです。

面白いことに、事故に遭う前はフラットペダルを使っていて、ビンディングペダルは未経験でした。正直なところ、最初は使うことに抵抗がありました。そこで、最初はネオジム磁石のペダルを試してみました。すぐに足を下ろして支えたいときに、クリップアウトが簡単だったからです。しかし、長い目で見ると、この解決策は効果的でないことが判明しました。

現在、私はクランク ブラザーズのビンディングペダルMallet E LSと、 Mallet E BOAシューズを使用しています。この組み合わせは、私が上手くMTBに乗るためには素晴らしい選択であるのは間違いないです。どんなふうに嵌め込んでも、泥がひどいときでも嵌るビンディングシステムには驚いています。さらに、シューズのBOAシステムは片手でも着脱できるので、とても便利です。

バイクチェック – GIANT REIGN-e
彼のバイクは実にユニークなセットアップです。ハンドルバーのサイドにあるすべてのコントロール、130mmクランク、カスタムシートなど、多くのものを備えています。マレックのカスタムセットアップをご覧ください。

CB: E-BIKEをどのように感じていますか?

MT:E-BIKEは、私や身体に制限のある人たちにまったく新しい可能性を与えてくれました。E-BIKEは、トレイルへのアクセスを可能にし、ライディングの興奮を味わわせてくれるのです。

しかし、片足のライダーである私のニーズは、一般的なライダーとは異なります。

私の主な悩みのひとつは、シートが思うように安定しないことです。そのため、シートを低くして、モーターの最大限のパワーアシストに頼らざるを得ないことが多いのです。これまでさまざまなモーターを試してきましたが、それぞれに長所と短所があります。例えば、以前乗っていたトレックのBoschモーターは非常にパワフルでしたが、狭いトレイルではアグレッシブすぎることがありました。一方、現在乗っているGIANTのモーターはヤマハのモーターで、よりリニアな出力が得られます。そのため、急なカーブも楽に曲がれるようになりましたが、上り坂では力が必要です。でも、E-BIKEという選択肢があることに感謝し、自分に合った使い方を考えていきたいと思っています。

CB:事故の前にE-BIKEに乗られていたのですか?

MT:2013年当時、E-BIKEは比較的新しいもので、事故が起こるまでは体験する機会がありませんでした。

CB:2023年の予定はありますか?

MT:エキサイティングな1年になりそうです。特に、私たちのビデオに対するマウンテンバイクのコミュニティーの反応を見たいと思っています。さらに、もっと多くのバイクパークを訪れ、自分のライディングスキルの向上を目指します。また、より安定したシートを作りたいと考えています。

また、医療分野にも興味があり、特に子宮内膜症という病気は、長年診断されないままになっている患者さんが多いので、MRIによる画像診断の分野にも取り組んでいきたいと思っています。最後に、友人と共同で立ち上げたスタートアップで、脳卒中後のリハビリのためのバーチャルリアリティアプリの開発に力を入れていることにも、とても期待しています。

CB: パラリンピックに出場しようと思ったことはありますか?

MT:いいえ。フルタイムのアスリートというのは過酷で疲れる職業ですし、医学的なキャリアを同時に追求するのは困難でしょう。さらに、競技に参加するための精神的な準備が整っているかどうかもわかりません。

CB: わかりました。では最後に、これまで経験したことの中で、最も役に立ったアドバイスや教訓を一つ教えてください。

MT: この物語は、私が一見不死身のように描かれているかもしれませんが、それは正確ではありません。現実には、私たちはスーパーヒーローではありません。私は人生を好転させるまでに、数え切れないほどの涙を流し、大いに悩んだものです。あきらめかけたことも数え切れないほどあります。しかし、このことは何も恥じることではありません。

実は、私の人生には、常に私を励まし、信じてくれる人たちがいたのです。彼らは、一歩一歩、私を支えてくれたのです。もちろん、最終的には自分が頑張るしかないのですが、大切な人からの心の支えがなかったら、もっと大変なことになっていたでしょう。

もし、あなたが何らかの理由で押しつぶされそうになっているのなら、あなたは一人ではないことを知っておいてください。多くの人が同じような苦労をしているのです。しかし、幸せとは、身体的な能力や財産によって決まってしまうものではないことを忘れないでください。もし、あなたが夢を持っているのなら、恐れずに大切な人たちと共有し、一緒に解決策を考えてみてください。彼らのサポートがあれば、どんな障害も乗り越えられるはずです。

私の人生の旅を支えてくれた家族や友人たちに、心から感謝したいと思います。今年は、人生の大きな変化に直面してから10年目にあたりますが、彼らの存在なくしては人生を取り戻すことはできなかったと思います。また、私の物語を共有し、もっと他の人にもインスピレーションを与える機会を与えてくれた皆さんに感謝します。

アダプティブMTBは、他のアダプティブ・スポーツに比べるとまだ普及していません。クランクブラザーズがその可能性を見出してくれたことに感激しています。今後、このスポーツが障がい者にとってよりメジャーなものになるよう、活動をアピールしたいと思っています。

※アダプティブ・スポーツとは、身体の状態に「適応(adapt)させた」スポーツのこと。
障がい者や高齢者なども参加できるように既存のスポーツを修正したもの、新たに創設されたものを指します。

IMAGES & VIDEO // KUBA GZELA

翻訳元WEBサイト(英文)

クランクブラザーズ 製品サイト