ビスポーク、それは依頼人と職人がじっくりと話し合い、依頼人の趣向や用途、好みなどをしっかりと共有し、それをもとに服や靴などをベストなものへと作り上げること言う。
英語の「be-spoken」が語源とされている通り、依頼人の要望を話し合いによって引き出していくのである。
自転車のビスポークと聞けば、敷居が高いように思えるかもしれない。
しかしそれを、カフェでお茶やケーキを頂きながら、気が向いたらとりあえず話しをしてみるという至極気軽なきっかけからはじめられるとしたらどうだろうか。
大阪府岸和田市に店舗を構えるWARE HOUSE(ウェアハウス)では、そんな気軽なビスポークを誰でもはじめることができる。
「まずは気軽にコーヒーだけでも飲みに来てください。」
店主の片山さんは笑顔でそう言う。
「自転車を見に行くというのは勇気がいるものです。なにも知識がないけど大丈夫かな、気に入る自転車があるかな、なにも買わずに店を出るのはまずいかな、様々な不安があって当然です。」
片山さんの言葉には、わたしたち客側の心情をおもんぱかる優しさが滲み出ている。だからこそ、たった一杯のコーヒーが来店の理由でいいのだ。
これまで自転車の購入とは縁がなかった私自身も、自分も自転車の世界に足を踏み入れられるのだ、踏み入れていいのだ、と、なにか許しを得たような、遠くにあったものを自分のすぐ近くに持ってきてもらったような、そんな気分になった。
店内を見まわすと、色とりどりの自転車やヘルメット、アクセサリーのほか、様々な色のブレーキケーブルやシフトケーブルが並べられている。
「自転車を購入していただいたら、好きな色のケーブルを選んでいただきます。それから、いつどのように自転車に乗られるか、できる限り詳しく伺います。お客様それぞれの状況に応じて、自転車のセッティングを細かく調整しなければならないからです。」
一般的に自転車は、8割方組みあがった状態で各メーカーの工場から出荷され店舗に届くそうだが、ウェアハウスではそれを一度全てばらすそうだ。いわば、納車する前からオーバーホールを行うのである。
「安全と使いやすさを最大限に引き出すため、すべてグリスアップをし直します。またフレームの艶が長持ちして汚れが付きにくくなるようにコーティングもします。それからお客様に選んでもらったカラーのケーブルを組んでいくわけです。ですのでお待たせして申し訳ないのですが、ご購入から納車まで2~3週間は頂いています。」
聞くと、ケーブルはただカラフルなだけでなく、一般的に使われているものよりも寿命が長いステンレス製のものが使われているそうだ。しかも、半世紀以上も鉄製品の製造を行ってきた日泉ケーブル株式会社と独自に共同開発したものだというから驚きだ。更に驚くべきは、ここまでのビスポークに工賃は取っていないというのだ!
片山さんは納車までに時間がかかることを申し訳なさそうに語ったが、その2~3週間にはつり合わないほどの大きな価値があることは間違いない。
さらに高いレベルのビスポークを行うと、この世に2台と存在しない完全に自分だけの理想の一台を作ることができる。上の自転車も、普通は装備することを想定していないようなオプションパーツを試行錯誤のうえ装備させたこだわりの一台だ。
自分であらかじめ用意したフレームを持ち込んで、そこから希望の一台に仕上げていくということも可能だそうだ。
「見た目だけではなく、実際に使うことを想定して組みあげます。例えば、自転車を保管する場所に少し傾斜がついているとしたら、一般的なスタンドよりももっと頑丈で安定感のあるスタンドをご提案します。そうやってお客様も気付いていないような細かいところまで詰めていくのです。せっかくの理想の一台ですから、長く乗ってもらいたいですしね。」
うっすらとコーヒーの香りが漂う穏やかなサイクルカフェの空気感。
つい自転車店にいることを忘れてくつろいでしまう。
理想の自転車を求めるなら、まずはふらっとコーヒーを飲みに行かれてはいかがだろうか。
【店舗情報】
WARE HOUSE (ウェアハウス)
大阪府岸和田市春木本町9-26
(南海本線 春木駅より徒歩6分)
072-424-7564
営業時間 11:00~18:00 (月曜定休)
WARE HOUSE (shopinfo.jp)
記事:中野維人