Arise Geared ショートストーリー

そのラックに、遊び心を載せて。

自転車に求めるものは何だろう?

レースに勝てる性能か、翼の生えた様な軽さか。あるいは、個性を表現するファッション性や、移動手段としての利便性かも知れない。

Bombtrack:Arise Gearedは、ありふれた日常に遊び心というスパイスを与える、特別な空間を生み出すバイクだろう。

人混みは苦手だ。

満員電車を避けて道路へ繰り出したが、ここにも人と車とが溢れ、空を狭めるビルでは今も誰かが仕事をしている。物理的な距離では、この息苦しさから逃れられない。

そんな中、僕にとって心の落ち着く場所が、Arise Gearedのサドルの上だった。

Arise Gearedは、マルチパーパスなグラベルバイク。目を引くのは、標準装備されたフロントラックだろう。専用設計のラックは、流石は収まりが良く、相性も抜群だ。

フロントセンターが長い安定重視のフレームは、ラックを用いた前荷重の積載と相性が良い。どっさり荷物を積んでも、その重さに振られることなく、意のままに操ることが出来るのだ。

安易にラックを付けたのではなく、ラックありきの設計がされている。そこに、Arise Gearedの美しさがある。

Arise Gearedは、文字通り「肩の荷を下ろしてくれる」バイクだった。

専用のパニアを用意する手間もなく、普段使っているリュックをどさりとラックに置けばよい。とてもシンプルで、とても自由。

荷物を背負わなくてよいから、持ち物のバリエーションが増えた。一眼レフを持ってスナップ撮影で遊ぶも良し、帰り道にちょっと大きなご馳走を買っても良し。もちろん、ふらっと遠出した時のお土産だって、形を気にせず買っても積める。

そんな「自由さ」が、この解放感を演出しているのだろうか?物理的には都会の中でも、その雑踏を隔てた空気を感じられるのだから不思議だ。

頭をスッキリさせて走っていると、次の遊びのアイディアがどんどん湧いてくる。いつの間にか型にはまっていた日常に、ポツリと滴った自由とゆとりが、僕の遊び心を呼び覚ましてくれた。

Arise Gearedは、そのルックスでも乗り手を魅了する。

景色に馴染みながらも、ふと目が止まる艶やかなグリーン。都会の影が生み出す縞模様は、そのフレームをいっそう引き立てる。

信号待ちでふと下を見たとき、バイクを立てかけ休憩するとき…つい見とれてニヤッとしてしまう。そんなバイクは、ライダーを幸せにする。

ある休日、ふらりとコーヒーセットを持って家を出た。パッキングは、リュックに道具を詰め込んで、ラックに括りつけるだけ。このシンプルさは、出発のハードルを下げて遊びに集中させてくれる。

胸の高鳴りに身を任せ、意気揚々と砂利道へ。堅牢なArise Gearedは、週末の遊び程度ではびくともしない。フレームの安定感に支えられ、僕はひたすら未舗装路を突き進むのみだ。

「今度は、もっと山奥にも遊びに行ってみようか」

「いや、キャンプ道具を積んで、焚火を眺めてゆっくりするのもいいな」

そんな妄想が膨らむのは、フレームの性能ゆえだろうか。もっと大きな冒険へと、バイクに誘われているかのよう。Arise Gearedにとっては当然の性能だが、いざ走るとその実力をまざまざと見せつけられる。

今日の目的は、海辺に出来たコーヒーショップに立ち寄って、美味しい豆を手に入れること。隣のパン屋で軽食も調達して、ちょっとしたピクニック。

この機会に、普段は行かない河川敷の奥地へと進んでみた。車の行き交う国道から離れ、空気の澄んだその先へ。

見晴らしの良い丘に出て、じっくりとコーヒーの香りを楽しむ。風が秋の匂いを運ぶなか、遠くの白波を眺めてぼんやりと…。ああ、こんな時間も良いなとしんみり思う。赤トンボが飛び回り、ちらちらと視界を横切った。

ちょっとした自由と遊び心で、何気なく過ぎていた日々が輝きだす。

日常に、少しのワクワクを。「あ、こんな事も出来るじゃん」そんな発見と挑戦を、Arise Gearedと共に積み重ねて行きたい。